<第174回例会>
シンポジウム「製菓・製パン材料としての卵、グルテンについて」
 
 日時 2018年5月12日(土) 13:00〜17:15
 場所 神戸女子大学 教育センター

 定例会に先立ち、
 平成30年5月5日に逝去された当研究会前会長 森田尚文先生のご冥福を祈り黙祷を捧げました。
日本穀物科学研究会
卵が小麦加工食品に及ぼす影響
中部大学 応用生物学部
小川 宣子 氏
卵の調理加工特性
 市場には飼料などの給餌方法が異なる卵、異なる鶏種が産卵した卵など多種類の卵が流通している。卵は多くの調理加工特性を持った食品である。熱によって流動性を失う「熱凝固性」、気体を保持することができる「起泡性」、油と水をコロイド状態にする「乳化性」などがあり、これらの調理特性の中で「熱凝固性」は厚焼き卵,ゆで卵,目玉焼き,オムレツ、「起泡性」はエンゼルケーキ,スポンジケーキ,マシュマロ,メレンゲ、「乳化性」はマヨネーズ,アイスクリームなどに利用されている。これらの卵料理および加工食品はどのような卵を使用しても同じできあがりになるのであろうか?もう少し俗な言い方をするならば「おいしい卵料理」はどのような要因に支配されているのだろうか?加熱条件・撹拌条件などの調理方法が卵料理の美味しさに影響を与えるのであろうか?これらの卵の種類や調理条件などの要因がそれぞれの調理特性を利用した料理の「おいしさ」にどのような影響を及ぼすのか、影響を及ぼすとするとどうしてなのかを考察していきたい。

卵を副材料として利用した場合(麺、パンを例として)
 卵を小麦粉加工品のつなぎなどの副材料として利用した場合の製品への影響について、テクスチャーや組織構造からパンを例に紹介をする。また、卵を熱変性させることで、副材料としての効果が期待できる研究結果について麺のテクスチャーに及ぼす影響から紹介する。

卵がコレステロールに及ぼす影響
 調理加工により変性させた卵がコレステロールに及ぼす影響について、実験結果から報告する。
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製菓・製パン材料としての鶏卵(卵)の役割と、乾燥卵の今後の可能性について
キユーピー株式会社 研究開発本部 商品開発研究所
タマゴ開発部 有満 和人 氏
 2017年(平成29年)の日本での鶏卵(卵)の生産量は、前年比1.5%増の260万1,173dであった。県別生産量では1位:茨城県、2位:鹿児島県、3位:千葉県、3位:鹿児島県の順位で、岡山県、広島県を加えた上位5県で全国の生産量の32.4%を、上位10県で同じく51.8%を占めている(農林水産省調べ)。この数量を日本人1人あたりの消費量に換算すると331個であり、メキシコに次いで世界2位の消費量になる(2017年のIEC(国際鶏卵協議会)の年次報告書による)。ほぼ毎日1個消費されている計算になるが、このうち家庭での消費は約50%であり、残りのうち約30%が料飲、給食等での消費、約20%がマヨネーズ、製菓・製パン類、かまぼこ類、麺、ハム・ソーセージ類、冷凍食品等の各種加工品の原料として、全く違った形になって消費されている。
 このように、鶏卵は単に卵料理として消費されるだけではなく、製菓・製パンの分野では小麦粉、砂糖、油脂、乳製品とともに広く使用されている原料のひとつである。ただし、製菓・製パン材料としての鶏卵の役割としては、単に卵風味を与えたり、色調を良くするだけではない。鶏卵は「色調」「風味」のほかに、「起泡性」「熱凝固性」「乳化性」「栄養価」といった、他のたん白食品では見られない機能特性を持ち、これらの機能を知らず知らずのうちに利用しながら作られているベーカリー製品も多く存在する。したがって、安定した品質のベーカリー製品をつくるには、この鶏卵の持つ機能特性をよく理解し、上手に使いこなすことが大切と考えられる。
 本報告では、この鶏卵のもつ機能特性を、製菓・製パン材料として、特に「安定した品質の製品作りのために留意しておきたいポイント」の面から解説する。
 また、鶏卵を使用する際には、割卵の手間、歩留り、卵殻の廃棄、卵黄と卵白のバランスが崩れたときの対応、食中毒菌のひとつであるサルモネラ属菌対策、等の対策が必要となるが、この点を改善した「加工卵(液卵・凍結卵・乾燥卵)」の特徴を解説するとともに、特に「乾燥卵」について、製菓・製パン材料としての今後の可能性について解説する。
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グルテンの調整法の違いと特製
グリコ栄養食品株式会社
村上 哲也 氏
 小麦の不溶性タンパク質であるグルテンは、加水することによって特有の粘弾的な物性を発現することから、食品の効果的な改質素材として、多くの加工食品に利用されている。グルテンは小麦粉から粘弾的なガム状の塊のウェットグルテンとして抽出され、一般的には、このウェットグルテンを乾燥して粉末化したものが利用されている。
 グルテン粉末の工業的な製造方法は主に2種類ある。一つは、小麦粉から抽出したウェットグルテンを細断して、フラッシュドライヤーで乾燥し粉末化する方法であり、一般的なグルテンはこの手法で製造される。もう一つは、ウェットグルテンを酸またはアンモニア水溶液中に分散させて液状にし、スプレードライして粉末化する方法である。このスプレードライグルテンは、一般的なフラッシュドライグルテンとは性質が大きく異なり、粘着性が強く伸展性が大きい独特の物性を示す。
 製パン性を向上させるためにグルテン粉末を使用した際、フラッシュドライグルテンとスプレードライグルテンは異なった効果を示す。フラッシュドライグルテンは生地をしっかりと補強する効果があるのに対し、スプレードライグルテンは、生地を補強しつつ伸展性を向上させる作用がある。生地を引っ張るなどのダメージを受けやすい作業工程があるとき、フラッシュドライグルテンの添加ではダメージを回避できない場合でも、スプレードライグルテンの添加により生地の伸展性を向上させることで効果的に改善することができる。
 スプレードライグルテンはこのように特徴的な物性を発現するが、その物性と構造の関係については十分に明らかにされていない。そこで私たちは、スプレードライ前にグルテンを分散液化するプロセスに着目し、グルテンを酸またはアンモニアで分散した後に凍結乾燥してグルテン粉末を調製し、その特性を解析した。その結果、以下の知見が得られたので、その詳細を発表する。この知見をもとに、グルテンの物性改質技術の発展に寄与したい。

・酸またはアンモニア処理したグルテンのドウは、グリアジン様の物性を示し、グルテニンポリマーの一部がグリアジンのように70% エタノールで抽出できる状態になっていた。グルテニンポリマーがグリアジン様特性を示す一因として、グルテニンポリマーの凝集性の低下が関与していた。
・グルテンを酸処理したとき、グルテニンポリマーの分子量分布に変化はなかったが、グルテニンポリマーの多くがグリアジンのように70% エタノールで抽出できる状態になっていた。このことから、酸処理グルテンは、グルテニンポリマーが電気的な斥力により凝集性が低下することが一因となって、グリアジン様の挙動を示すことを明らかにした。
・アンモニア処理したグルテンは、酸で処理したときのメカニズムとは異なり、SH基が関与した構造変化が一因となって、グリアジン様物性を発現することを明らかにした。
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食品産業生産性向上
農林水産省 食料産業局
食品製造課長 横島 直彦 氏
 農林水産省では、食品製造業等の抱える課題、今後のビジョン、対応の方向について認識を共有し、戦略的な対応を検討するため、有識者の参加を仰いで食料産業局長が主催する食品産業戦略会議を行った。同会議は平成29年5月から平成30年3月まで9回開催し、先進的な取組、独自の活動を行っている事業者や、食品産業に関わる課題を研究している専門家に発表を依頼し、それを巡って委員が自由に意見交換する形で進めた。これらの議論を「食品産業戦略」としてまとめ、平成30年4月に公表した。
 同戦略では、最も身近な製品とも言える食品に関わる産業、特に食品製造業の今の姿を改めて見つめ直し、2020年代の日本の食品産業のあり方を提案した。食品産業にこれから関わる人には日本の食品産業の鳥瞰図を示し、一方、食品事業者には自らの立ち位置を確認し、新たな活動に一歩を踏み出すためのきっかけになることを目指している。
 同戦略の第1章では、日本の産業における食品産業の位置づけ、日本の製造業における食品製造業の位置づけを概観している。食品製造業、外食産業、関連流通業に、農林漁業や関連投資も加えた食品関連産業全体で見ると、国内生産額は約100兆円と国内総生産額の9.5%2、就業者数は827万人で全就業者数の13%を占める巨大産業である。このうち、食品製造業(食料品製造業及び飲料製造業)の製造業に占める比率を見ると、事業所数で14.3%、従業員数で15.9%、製造品出荷額で11.0%、付加価値額で11.1%を占めている。事業所数、従業員数は、製造業の中では第1位であり、製造品出荷額や付加価値額は自動車などの輸送用機械器具製造業に次いで化学工業と並ぶ存在感を有している。
 第2章では、日本の食品産業、特に食品製造業の強み、弱み、魅力、そして課題を日本の他の産業や海外の食品製造業と比較しながら整理している。そして、
(1)世界に誇る「高い」水準の生産工程と「高い」製品の品質、
(2)次々と新商品を投入する「高い」商品開発力、
(3)より安定した輸送や長期の保存を可能とする「高い」包装・充填技術、
(4)短時間に「高い」鮮度で提供できる物流網、
(5)伝統、地域性、機能性に支えられた「高い」ブランド力、
といった強みを有する日本の食品製造業は、
(1)和食や日本独自の食品への関心の高まり、
(2)健康・医療等に資する食の機能性への世界的関心の高まり、
(3)電子商取引の普及に伴う流通の多様化
といった機会を活かして世界の食市場で独自の地位を占める潜在性を十分に有しているものの、それを実現する上で、(1)「低い」付加価値、(2)「低い」労働生産性、(3)「低い」給与、(4)「低い」設備投資による設備の老朽化、安全性対策への懸念、(5)「低い」海外事業比率(輸出と海外投資)といった弱みを改善し、
(1)少子化・高齢化に伴う人口減少による国内市場の縮小、
(2)人手不足が将来的に確実な中での人材確保、
(3)食品の安全性に係る規格・認証の要請と安心への関心、
(4)環境・社会・ガバナンス(ESG)に配慮した事業活動の要求、
(5)多発する自然災害でも求められる持続的供給、
(6)世界の食市場の拡大に伴う原材料争奪の激化、
といった課題を克服する必要があると指摘する。
 第3章では、2020年代に向けて日本の各食品事業者が挑むべき3つの目標、(1)需要を引き出す新たな価値創造による付加価値額3割増、(2)海外市場の開拓による海外売上3割増、(3)労働生産性の3割増、を食品製造業のトリプルスリーとして掲げている。この目標達成に向け、具体的に取り組むべき事項を第4章に列挙している。既にそうした活動に着手し、さらに成功した事業者の例も紹介している。さらに、今後、こうした活動を支援するため農林水産省が行う取組も示している。
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