<第181例会・総会>
日時 2020年2月1日(土) 13:00〜17:10
場所 神戸女子大学 教育センター
日時 2020年2月1日(土) 13:00〜17:10
場所 神戸女子大学 教育センター
「パネットーネサワードウの発酵微生物に関する諸特性」
西南女学院大学 保健福祉学部栄養学科 教授
甲斐 達男 氏
甲斐 達男 氏
パネットーネは、イタリアミラノ地方で百年以上に渡ってクリスマスシーズンに作り続けられている伝統的な菓子パンである。もともとは、マザードウ(母種)を日本の糠床のようにして各家庭で植え継いで維持し、これを元種にして作られていた。種に棲息する発酵微生物は乳酸菌と酵母であり共生関係にある。ここでは便宜上、それらをパネットーネ乳酸菌、パネットーネ酵母とよぶ。パネットーネの種は移民によって世界各地に持ち運ばれたが主に南米に広く根付いている。そのヨーグルトに似た独特の甘い風香味は日本人の嗜好にも合い、近年、一部のベーカリーで市販されるようになった。現在では、容易に製パンできるよう、種の粉末や液状物などが市販されている。近年では、イタリアの家庭で母種を植え継ぐことはほとんどされなくなったが、これも日本の糠床と同じような状況にあるといえる。ミラノ郊外の農村にあるベーカリーで100年以上も植え継がれてきたという母種を入手したことと、パネットーネ研究のメッカであるミラノ大学から協力を得られたことが重なって、パネットーネについてさまざまな検討を始めた。今回、その概要を概説する。
母種から、乳酸菌はMRS培地を用いて、酵母はYPD培地を用いて純粋分離を行った。属種の同定は、乳酸菌と酵母の双方について、リボソームのスペーサー配列解析、酵母についてはさらにPFGEによる核型分析によって行った。その結果、パネットーネ乳酸菌と酵母をそれぞれ数株ずつ得ることができた。先ず、製パンに適した乳酸菌と酵母ペアの選抜システムを確立する目的で、得られた株とミラノ大学から購入した株の中から、増殖速度、酸産出能、糖(スクロース/マルトース/グルコース)の発酵能、パン生地発酵能、において優れたものを、乳酸菌と酵母についてそれぞれ個別に3株を選抜した。次に乳酸菌と酵母の相性を観るために、液体培養、パン生地発酵能、製パン試験、官能評価に基づいて検討し、ベストペアを選抜した。実験室レベルでの選抜方法は確立できたと思われる。
このベストペアの乳酸菌と酵母について、それぞれ全ゲノム配列を解析し、現在、乳酸菌について構造解析中である。一方、パネットーネ乳酸菌はサンフランシスコサワードウの乳酸菌(便宜上、サンフランシスコ乳酸菌とよぶ)と同属種であり、双方は出所が同じではないかとの疑問を持ったので双方のゲノム構造を比較解析することにした。サンフランシスコ乳酸菌のタイプカルチャーを理化学研究所のストックから購入し、その全ゲノム配列を解析した。パネットーネ乳酸菌と比べてサンフランシスコ乳酸菌はゲノム長が短かったものの、その相同性の高さから、パネットーネ乳酸菌から何らかの遺伝子群(低糖生地に必要なものか?)がすっぽりと抜け落ちた可能性が想像される。さまざまな解析ソフトを駆使してこの疑問を解明したい。
パネットーネは、その風香味だけでなく、シェルフライフが数カ月以上あること、特にカビが生えにくいことが特徴とされる。日持ちの長さは、主に糖の量が多く水分活性が低いためだとされているが、それ以外に、発酵微生物が、何がしかの抗カビ性因子を分泌しているのではないかという見方もある。抗カビ性発現の実態は未解明であるものの、「抗カビ性のあるパネットーネ乳酸菌」が特許化されている。焼成加熱工程を経たパンに強い抗カビ性があるのであれば、安全で耐熱性のある強い抗カビ剤の産業化につながる可能性がある。パネットーネ乳酸菌の液体培養上清に抗カビ活性が認められ、この活性は培養条件によって変化した。そこで、高活性画分と低活性画分をLCMSで差位分析にかけたところ、抗カビ性因子の候補成分がひとつ得られた。一方、高活性画分を用いて抗カビ性の作用点を探索したところ、ニューキノロン系の抗菌剤と似たDNA合成阻害活性が確認され、何らかの因子の存在が裏付けられた。
母種から、乳酸菌はMRS培地を用いて、酵母はYPD培地を用いて純粋分離を行った。属種の同定は、乳酸菌と酵母の双方について、リボソームのスペーサー配列解析、酵母についてはさらにPFGEによる核型分析によって行った。その結果、パネットーネ乳酸菌と酵母をそれぞれ数株ずつ得ることができた。先ず、製パンに適した乳酸菌と酵母ペアの選抜システムを確立する目的で、得られた株とミラノ大学から購入した株の中から、増殖速度、酸産出能、糖(スクロース/マルトース/グルコース)の発酵能、パン生地発酵能、において優れたものを、乳酸菌と酵母についてそれぞれ個別に3株を選抜した。次に乳酸菌と酵母の相性を観るために、液体培養、パン生地発酵能、製パン試験、官能評価に基づいて検討し、ベストペアを選抜した。実験室レベルでの選抜方法は確立できたと思われる。
このベストペアの乳酸菌と酵母について、それぞれ全ゲノム配列を解析し、現在、乳酸菌について構造解析中である。一方、パネットーネ乳酸菌はサンフランシスコサワードウの乳酸菌(便宜上、サンフランシスコ乳酸菌とよぶ)と同属種であり、双方は出所が同じではないかとの疑問を持ったので双方のゲノム構造を比較解析することにした。サンフランシスコ乳酸菌のタイプカルチャーを理化学研究所のストックから購入し、その全ゲノム配列を解析した。パネットーネ乳酸菌と比べてサンフランシスコ乳酸菌はゲノム長が短かったものの、その相同性の高さから、パネットーネ乳酸菌から何らかの遺伝子群(低糖生地に必要なものか?)がすっぽりと抜け落ちた可能性が想像される。さまざまな解析ソフトを駆使してこの疑問を解明したい。
パネットーネは、その風香味だけでなく、シェルフライフが数カ月以上あること、特にカビが生えにくいことが特徴とされる。日持ちの長さは、主に糖の量が多く水分活性が低いためだとされているが、それ以外に、発酵微生物が、何がしかの抗カビ性因子を分泌しているのではないかという見方もある。抗カビ性発現の実態は未解明であるものの、「抗カビ性のあるパネットーネ乳酸菌」が特許化されている。焼成加熱工程を経たパンに強い抗カビ性があるのであれば、安全で耐熱性のある強い抗カビ剤の産業化につながる可能性がある。パネットーネ乳酸菌の液体培養上清に抗カビ活性が認められ、この活性は培養条件によって変化した。そこで、高活性画分と低活性画分をLCMSで差位分析にかけたところ、抗カビ性因子の候補成分がひとつ得られた。一方、高活性画分を用いて抗カビ性の作用点を探索したところ、ニューキノロン系の抗菌剤と似たDNA合成阻害活性が確認され、何らかの因子の存在が裏付けられた。
「高機能性ソバの開発 ソバの品質に関する研究紹介」
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 作物開発・利用研究領域 鈴木達郎 氏
ソバは縄文時代の遺跡等から花粉が発見されるなど栽培の歴史は古いと考えられており、また、他の穀物と比較し栽培期間が短いため救荒作物として栽培・備蓄が推奨されてきた歴史がある。一方、ソバ麺(ソバ切り)をはじめとした料理など日本の文化に深く根ざした作物であり、6産業化等による地元産ソバのブランド化や、新ソバの時期に各産地で開催されているソバ祭り等を通じ、地域経済を支える重要な作物としての位置づけにある。
ソバ属の栽培種には、普通ソバ、ダッタンソバ、宿根ソバの3種類がある。最も栽培面積が大きいのは普通ソバであるが、近年ダッタンソバにも注目が集まっている。ダッタンソバは、中国を筆頭にロシア、ネパール、EU諸国等で栽培されている1年生作物である。ダッタンソバの実は普通ソバの100倍程度多くのルチン(種子成分の約1.5%に相当する)を含有することが大きな特徴である。しかし、ダッタンソバは別名「苦ソバ」と呼ばれ、粉や加工食品は非常に苦いため、一般的には嗜好性が劣るとされる。「苦味」の原因物質はケルセチンと2種類の未同定物質との報告があり、ケルセチンはダッタンソバ粉中のルチノシダーゼが触媒するルチンの加水分解反応により生じる。粉への強力な加熱処理でルチノシダーゼを失活する加工技術はあるが、風味や物性の大幅な劣化、コスト増等の課題がある。そこで、加熱処理をしなくとも苦味やルチン分解が生じない新品種が期待されていた。
このような背景を受け育種されたダッタンソバ品種「満点きらり」は、一般的なダッタンソバ品種と比較しルチノシダーゼ活性が数百分の一と弱い。そのため、粉や加工食品の苦みがほとんどなく、ルチンの大部分が分解されずに残存する。本形質は劣性の単一因子により支配され、また当該品種を識別するDNAマーカーが開発されている。「満点きらり」の栽培面積は増加傾向にあり、北海道のオホーツク沿海を中心に全国で約400ヘクタール栽培されている。ヒト介入試験では、「満点きらり」5割配合麺を12週間継続摂取した群において、体脂肪率で4週間目にプラセボ群より有意な低減が見られ、また体重およびBMIでも8週目にプラセボ群より有意な低減が見られた。
ソバ属の栽培種には、普通ソバ、ダッタンソバ、宿根ソバの3種類がある。最も栽培面積が大きいのは普通ソバであるが、近年ダッタンソバにも注目が集まっている。ダッタンソバは、中国を筆頭にロシア、ネパール、EU諸国等で栽培されている1年生作物である。ダッタンソバの実は普通ソバの100倍程度多くのルチン(種子成分の約1.5%に相当する)を含有することが大きな特徴である。しかし、ダッタンソバは別名「苦ソバ」と呼ばれ、粉や加工食品は非常に苦いため、一般的には嗜好性が劣るとされる。「苦味」の原因物質はケルセチンと2種類の未同定物質との報告があり、ケルセチンはダッタンソバ粉中のルチノシダーゼが触媒するルチンの加水分解反応により生じる。粉への強力な加熱処理でルチノシダーゼを失活する加工技術はあるが、風味や物性の大幅な劣化、コスト増等の課題がある。そこで、加熱処理をしなくとも苦味やルチン分解が生じない新品種が期待されていた。
このような背景を受け育種されたダッタンソバ品種「満点きらり」は、一般的なダッタンソバ品種と比較しルチノシダーゼ活性が数百分の一と弱い。そのため、粉や加工食品の苦みがほとんどなく、ルチンの大部分が分解されずに残存する。本形質は劣性の単一因子により支配され、また当該品種を識別するDNAマーカーが開発されている。「満点きらり」の栽培面積は増加傾向にあり、北海道のオホーツク沿海を中心に全国で約400ヘクタール栽培されている。ヒト介入試験では、「満点きらり」5割配合麺を12週間継続摂取した群において、体脂肪率で4週間目にプラセボ群より有意な低減が見られ、また体重およびBMIでも8週目にプラセボ群より有意な低減が見られた。
「食物繊維関連について と “植物エストロゲン”の生理効果」
愛媛大学大学院農学研究科生命機能工学専攻 応用生命化学コース栄養科学教育分野 教授
岸田 太郎 氏
岸田 太郎 氏
植物エストロゲンはエストロゲンとの構造類似性によりエストロゲンレセプターの活性化能を持ち、エストロゲンと同様の作用をもたらす一群のポリフェノールを指す。穀類にも様々な植物エストロゲンが含まれており、大豆に含まれる大豆イソフラボン(ダイゼイン、ゲニステインなど)や、麦類のふすまに含まれているリグナン(セコイソラリシレジノール、ラリシレジノール、マタイレジノール、ヒドロキシマタイレジノールなど)が良く知られている。大豆イソフラボンもリグナンも共にその多くが配糖体として存在し、動物に食事され腸内細菌により代謝された後作用をもたらしている可能性が指摘されており、大豆イソフラボン・ダイゼイン由来のエコールや、リグナン由来のエンテロラクトンについては多数の報告がなされている。
植物エストロゲンはエストロゲンが欠乏した状況ではエストロゲン作用を、エストロゲンが充足または過剰な状況では抗エストロゲン作用をもたらすことが報告されている。植物エストロゲンの食欲抑制効果、血中脂質低下効果および骨粗しょう症抑制効果はエストロゲン性に、乳がん発症抑制効果は抗エストロゲン性にまつわる生理効果と従来考えられてきた。我々も大豆イソフラボンについてこれらの効果を検討してきた。しかし、植物エストロゲンのこうした生理効果が、本当にエストロゲン性・抗エストロゲン性によりもたらされているのか。これについてはまだ結論的な報告はなされていない。
この度は、こうした植物エストロゲンの生理作用について、我々の検討している大豆イソフラボンダイゼインの雌ラット特異的な食欲抑制効果に関する検討を中心に、植物エストロゲンの非エストロゲン的な作用機構の可能性をお話しします。
植物エストロゲンはエストロゲンが欠乏した状況ではエストロゲン作用を、エストロゲンが充足または過剰な状況では抗エストロゲン作用をもたらすことが報告されている。植物エストロゲンの食欲抑制効果、血中脂質低下効果および骨粗しょう症抑制効果はエストロゲン性に、乳がん発症抑制効果は抗エストロゲン性にまつわる生理効果と従来考えられてきた。我々も大豆イソフラボンについてこれらの効果を検討してきた。しかし、植物エストロゲンのこうした生理効果が、本当にエストロゲン性・抗エストロゲン性によりもたらされているのか。これについてはまだ結論的な報告はなされていない。
この度は、こうした植物エストロゲンの生理作用について、我々の検討している大豆イソフラボンダイゼインの雌ラット特異的な食欲抑制効果に関する検討を中心に、植物エストロゲンの非エストロゲン的な作用機構の可能性をお話しします。