<第173回例会・総会>
シンポジウム「地域に根ざした小麦粉食」
 
 日時 2018年2月3日(土) 13:00〜17:00
 場所 神戸女子大学 教育センター
日本穀物科学研究会
最近の国内産小麦の需給事情も踏まえた今後の対応方向
農林水産省・農林水産政策研究所 
企画広報室長 吉田行郷 氏
 2000年に国内産小麦の流通が政府管理から民間流通に移行して以来15年以上が過ぎた。国内産小麦の需要を供給が大きく上回るいわゆる「ミスマッチ」状態にあった民間流通への移行当初と比べれば、現在は、国内産小麦への積極的な評価も増え、小麦市場における国内産小麦の地位は確実に向上している。このため、遂に、平成27(2015)年産の北海道産小麦は過去最高の73万トンの豊作となり、全国の生産量も100万トンに達したが、平成28(2016)年産以降は,需要が供給を上回るいわゆる「逆ミスマッチ」状態という状況になっている。
 本報告では、こうした状況となった要因を、北海道、九州、関東、東海といった産地毎に、統計データ、POSデータ、関連企業、JA等に対する調査結果等を用いて生産・流通・消費という各段階別の実態を整理することで明らかにし、産地間の比較分析から、わが国の小麦のフードシステムにおける各産地産の小麦の位置付けを整理した。その結果、これまでは、産地で、使われる場所や使用する実需者で棲み分けられている状況にあったのが、徐々に首都圏等大都市圏での販売の割合が高まってきていることから、各産地が競合する関係になってきており、各主産地産の小麦のサプライチェーンも広域化していることが明らかになっている。このため、産地と2次加工メーカー等の間をつなぐ製粉企業も、広域で、かつ、きめ細やかな対応が必要になってきていることを示した。
 さらに、近年、各産地産小麦に対する需要が変化しており、@外国産小麦では出せない食感を出すためなど、外国産との差別化を目的とした積極的な国内産小麦の使い方が増加していること、A強力系小麦の増産を受け、国内産小麦の用途が中華麺やパン用で確実に拡大していること、B産地では新品種の導入や農商工連携などの取組が増えてきており、消費地では、国内産小麦使用を積極的に訴える表示が増えるなど、需要拡大につながる新たな動きが双方で出ていることを紹介する。
 特に、新たな動きとして、地域の食文化や地元企業とより密着した地元産小麦を使用した製品の開発が、近年、各地で行われるようになっていることに注目したい。こうした取組では小麦の使用量は決して多くはないものの、一つ一つの取組が拡大・普及していくことで、地元産小麦に対する評価が高まり、ひいては新規用途の開拓や国内産小麦全体のイメージアップ、サプライチェーン全体での国内産小麦への共通認識の醸成につながることが期待される。
 また、今後、少子・高齢化の進展で、わが国では、人口減少と国民一人当たりの消費熱量が減少することが予想され、国内産小麦の主な用途である日本麺の需要も増大が見込めない状況となっている。このため、今後、国内産小麦の需要をさらに拡大していくためには、これまで国内産小麦があまり使用されてこなかったパンや中華麺での一層の使用拡大が求められることになるが、そのためには取り組むべき中長期的な課題を考察した。
 具体的には、@中長期的には、中力系小麦から強力系小麦への転換を進める必要があること、A最大の産地である北海道において、強力系小麦の増産を優先させていく必要があること、B根強い需要がある北海道産の中力系小麦の生産減少を、外国産小麦との代替ではなく、九州、関東、東海等での中力系小麦の増産で埋めることが出来れば、国内産中力系小麦に対する需要を拡大させられる可能性があること、C北海道外の産地で、外国産の増量材としての使用に甘んじている中力系小麦の生産を極力減らし、北海道外で北海道産の中力系小麦と代替で使用できるような高品質の中力系小麦の生産を拡大させることが重要なこと、D日本全体での国内産小麦への需要を俯瞰して、各産地が連携して、限られた量の国内産小麦をそれぞれの特性を踏まえて有効に使って消費者のニーズに応えていくといった視点も重要なこと等を提案したい。
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九州産小麦を用いたパン、ケーキについて 〜九州産小麦の良さを広く紹介、発信していきたい!〜
熊本製粉株式会社 研究開発部
道脇 隼一 氏
 小麦は世界各国で食べられている主要な穀物であり、各国の気候や風土に合った特有の食文化が発展し、それに応じた小麦粉加工食品が食べられています。例えばヨーロッパにおけるパン文化は多彩で、日本においてもヨーロッパのパンは良いお手本とされています。日本へ伝播したのは4〜5世紀ごろだと推定されていますが、粉にしてうどんや天ぷらとして庶民に食されるようになったのは江戸時代からだと言われています。そして、急速に小麦粉文化の普及が始まるのは、第二次大戦後です。戦後はコメの生産能力が大きく衰退し、食糧不足を解消するためにアメリカから大量の小麦が輸入されるようになりました。それから、パンや即席めんといった小麦粉加工食品が一般的に広がっていきました。また、経済成長に伴う食文化の変化もこれに拍車をかけたといえます。現在の日本は、小麦粉の加工品の多さでは世界有数といえるでしょう。世間のニーズも細分化していき、パン、菓子、麺、揚げ物のそれぞれで多種多様な商品が開発されています。
 今や日本の小麦粉は、種類と品質の多さでは世界一と言われています。これほどまでに小麦粉の種類が多くなった理由として、@小麦粉を原料として作られる食品の種類が多いこと、A日本人の嗜好がデリケートで小麦粉食品の美味しさを追求してきたこと、B品質の違う様々な小麦を入手できたこと、C製粉会社がお客様から出される品質要求にこまめに対応してきたこと、などが挙げられます。
 一方、多様な小麦粉文化を受け入れてきた日本において、利用される小麦粉のほとんどは外国産の小麦を原料としており、国産小麦は少ないのが現状です。その理由として、日本の気候や二次加工適性が外麦に比べて劣るという品質上の問題が上げられます。しかし、近年、品種改良の積み重ねにより、国産小麦でも製パン性や製麺性に優れた品種が登場してきました。また、消費者の国産志向の高まりもあって、国産麦小麦粉への期待も増してきたように感じられます。
 そんな中、熊本製粉鰍ノおいては“地域に根差した総合紛体・食品素材メーカーとして、食の歓びと健康に貢献する”をミッションとして九州産小麦粉(特に地元熊本県産を中心とした)を利用した特徴ある商品の開発や地域の生産者と結びついた取り組みを積極的に進めております。
 熊本製粉が生産する国産小麦粉の割合は製粉業界でも高く、「国産小麦粉といえば熊本製粉」と言っていただけるように努力して参ります。
 熊本は、阿蘇をはじめとした多くの伏流水という大地の恵みや、豊かな自然がおいしい小麦を育ててくれます。その土地で育ったおいしさを、長年培った製粉技術で一層引き立て、より付加価値のある商品としてお客様のもとへお届けしたいと考えております。
 今回の講演では、熊本における「地域と連携した小麦粉のブランドづくり(Premium T)」や、美味しさや風味に優れた石臼挽きを使用した特徴ある「九州産小麦粉(グレインドールシリーズ)」、その他にもピッツァにも大好評の「ミナミノカオリを使用したパン用小麦粉(南のめぐみ)」、粘りのある「チクゴイズミを使用した麺用小麦粉(阿蘇のいずみ)」、「シロガネコムギを使用した菓子用小麦粉(黄金月)」といった特長ある九州産小麦粉をご紹介させていただきます。

【参考文献】
世界の小麦と生産と品質(上巻・下巻) 著者 長尾 精一 発行所 輸入食糧協議会事務局
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兵庫県産小麦への取組について
株式会社増田製粉所 品質保証室長
黒岩 亜希彦 氏
 当社は神戸市長田区に所在する菓子用粉を主に小麦粉製粉を行っている会社である。当社では看板銘柄である菓子用粉「宝笠印」の技術を用いた国内産小麦100%の菓子用粉「内麦ゴールド」を平成12年に発売し、その後も国内産小麦を使用した製品の開発に取り組んできた。
 今回は、地元兵庫県産小麦を使用し、兵庫県認証食品の認証を取得した「兵庫県産小麦シリーズ」の紹介、「兵庫県パン用小麦新品種普及拡大協議会」の取組み、パン用小麦の「ミナミノカオリ」から「せときらら」への品種転換の取組み、1975年から兵庫の奨励品種となっている「シロガネコムギ」の後継品種の検討などについて報告する。
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日本穀物科学研究会
2018年度総会の様子
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本年度総会にて団体所在地の変更が承認されました。(規約変更)

団体の所在地の変更
(変更前)
 〒532-0003 大阪府大阪市淀川区宮原3-5-35
       日清製粉株式会社 大阪営業部
       日本穀物科学研究会事務局

(変更後)
 〒564-0043 大阪府吹田市南吹田4-4-1
       オリエンタル酵母工業株式会社 大阪営業部
       日本穀物科学研究会事務局
日本穀物科学研究会

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